「テンペスト」が終わって
7月17日から始まったNHK・BSドラマ「テンペスト」、10回の放送が終わりました。あっという間の3カ月でした。評判は上々で皆様に楽しんでいただけたようで嬉しいです。
僕も若輩者ながら時代考証に参加しましたが、いろんな経験を積ませてもらいました。最初この話がプロデューサーの岡本幸江さんから持ちかけられた時には、僕は断ろうかと考えていました。時代考証は一つの専門分野にとどまらず、歴史全般を把握していないとできない「総力戦」ということがわかっていたからです。とても若輩者につとまる仕事ではない。そもそもあのぶっ飛んだ原作をドラマ化するなんて信じられませんでした。あの世界を表現できるのか?不安で悩みましたが、最終的には沖縄県民や全国の視聴者からフルボッコされる覚悟で引き受けました。
去年の12月から演出の吉村さんや美術の川口先生、考証の高良先生たちとロケ地の選定・下見。大森さんの脚本を通しで読んで細かい部分のチェックと訂正。演出監督からの琉球史に関する質問と、ドラマの「裏」設定(つまり表に出ませんが決めなくてはいけないこと。例えば首里城北殿の評定所に詰める役人の数や浅倉雅博の在番奉行所での位置づけ、寧温の給料の額など)。
役者の着る衣裳リストが空白のままエクセルの表で送られてきて、この空白を全部埋めてください、というのもありました。琉球では足袋をはくのか、どの身分からどの場面ではくのか、研究では詳しくわかってないことでも、映像にするために決めなくてはいけない事項が山のように送られてきました。例えば仲間由紀恵さん演じる孫寧温の衣裳は(1)冠の色、(2)簪の材質、(3)衣裳、(4)帯、(5)足袋の有無、(6)扇子などの持ち物をそれぞれ決め、同一人物でもドラマの回ごとにも変更していきました。こんな決め事を出演者すべてにしなくてはなりません。膨大な作業量に目まいがしました。
また撮影が始まると今度は細かい質問や問い合わせが昼夜問わず来ました。その範囲は多岐にわたります。真鶴がサトウキビを刈り取る際のカマの種類と形状、那覇港CGの地形と建物の位置、織物のデザイン、登場する文書の書式と読み方、八重山の民謡、市場に並ぶ野菜と魚の種類のチェック、はてはセミの鳴き声の種類までアドバイスしました。それから寧温が八重山へ流刑のため連行される際、付き添う役人は何人でどの位置に配置し、どのような衣裳を着たほうが適当か、という具合です。リアルタイムで撮影しているので、すぐさま回答しなくてはいけません。質問が来たら手持ちの文献を調べ、ない場合は図書館へ走って必死で文献を探し、ようやく答えたものもありました。同時並行でNHK放送「琉球王国の秘密~ドラマ“テンペスト”の世界~」の監修もやっていたので、ごっちゃになってワケがわからなくなることもありました。
もちろんどうしても回答できないものは、同じく時代考証を担当した高良倉吉先生に助けてもらうこともありました。考証は当然僕だけの力ではなく、高良先生や衣装や踊り指導の先生方がいなくてはできませんでした。それにしても、6カ月以上にわたる際限のないと思えた考証作業は、想像以上に大変でした。
こうした質問に回答したにもかかわらず、演出のほうでボツになり無駄骨だったものもあります。例えば御内原の織物を作る高機(たかはた)は本来あの時代には存在しないものです。その旨を伝えたにも関わらず、放送では高機が使用されていてガッカリしたこともありました。時代考証とはあくまでもドラマを面白くする演出の脇役でしかなく、僕は演出にアドバイスをするだけで、それを決定する権限は全くありません。
僕が気を付けたのは、ぶっ飛んだ原作と脚本のテイストをいかに壊さず、歴史的により「リアル」に見せるための手助けをするかでした。ドラマはあくまでもフィクションです。学術論文とはちがいます。それを重々ふまえたうえで、考証にのぞみました。なので、例えば孫嗣勇が踊っていた「花風」(本来は近代に誕生)は原作を尊重し、史実でないことを承知しつつ、そのままにしました。
もちろん今回の考証が完璧だったとは思っていません。反省すべき点、次に生かしていきたい課題はたくさんありますが、何とか「テンペスト」の世界を映像化できたことに安堵しています。NHKのスタッフも短い制作期間と限られた予算という「無茶ぶり」を強いられたにも関わらず、その制限されたなかで最上のものを作ったと思います。沖縄での撮影はスタッフの睡眠時間は毎日2時間だったと聞いています。撮影はとても大変ですね。たくさんの「縁の下の力持ち」がいなければ決してできなかったと思います。
本当はこうしたかった、ああすれば良かったというのはあります。でもドラマを見た視聴者の皆様がとても喜んでいただけたことが救いです。僕のブログでもドラマをより楽しむための解説をやってきましたが、少しでもお役に立てたなら幸いです。ドラマは終わりましたが、引き続き琉球の歴史に興味を持っていただけたらと思います。
というわけで、本来なら毎年この時期にはブログ夏休みをとるはずでしたが、返上で更新してきましたので、これから遅い夏休みをとりたいと思います。
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