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2013年8月30日 (金)

ピョコっと出た石の起源

世界遺産にも登録された琉球王国のグスク群。その大きな特徴は、琉球石灰岩で積まれた美しい石積みです。本土の直線的な石垣と異なり、丸みをおびた柔らかな曲線で構成されています。

その石積みのコーナーになっている部分、よく見るとピョコっと飛び出しています。これは「隅頭石(すみがしらいし)」と呼ばれるもので、首里城をはじめとしたグスクのみならず沖縄の古い民家の石垣にも多用される技法です。なぜこのような石をコーナーに置いているのか、実はよくわかっていませんが、一説にはコーナー部分を高くすることで視角的に美しく見せているとも、魔除けなど宗教上の理由とも言われています。実は本土の天守台にも似たような技法はあるようですが、沖縄の隅頭石は極端に飛び出ているのが特徴です。

この隅頭石、いつ頃から石積みに設置されるようになったのでしょうか。よくわかっていないのですが、それを知る大きな手がかりが中城グスクにあります。中城グスクは15世紀中頃に護佐丸によって改修・整備されたグスクですが、彼が入る以前には先中城按司が住んでいたと伝わっています。

中城グスク正門横の張り出しの石積みのコーナーを見てみましょう。

Dsc05199_3

コーナーには隅頭石ではなく、平らな石が載っています。

Dsc05197_3

それに対して、中城グスク裏門付近の階段にある石積みのコーナーは隅頭石です。

Dsc05057_3

これは何を意味しているのでしょうか。中城グスク裏門とその周辺の三の郭、北の郭は1440年頃に護佐丸が新たに築いたとされています。石積みのタイプも相方積みと比較的新しいタイプです。一方、グスク正門は護佐丸以前にすでに築かれていたと考えられ、石積みタイプも布積みで、護佐丸が築いた区画よりも古い積み方です。

ちなみに一の郭の門両脇と二の郭の石積みにある隅頭石は、1950年代に修復された際に新たに取り付けたもので、もともとの石積みには確認されていません(【こちら】にある下から2段目、右から2枚目の写真を参照)

つまり、中城グスクの隅頭石は15世紀中頃以前には存在せず、1440年代以降に登場した可能性が高いと言えるのです。ついでに14世紀頃のものとされる糸数グスクの石積みにも、コーナーに隅頭石はありません。

Dsc01331

隅頭石の誕生に護佐丸が大きく関わっていた…かどうかはわかりませんが、中城グスクの事例から隅頭石の起源について迫ることができるのではないでしょうか。

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コメント

これは琉球独自な様式なのでしょうか? それとも他の東アジアにも見受けられる様式なのでしょうか?

投稿: まりきん | 2013年8月31日 (土) 08:11

>まりきんさん

全ての事例を確認してるわけではないですが、知る限りでは琉球独自のものではないかと思います。少なくとも沖縄ほど普及している地域は他にはないのではないでしょうか。

投稿: とらひこ | 2013年8月31日 (土) 12:55

 何かの文献に「角石」とあったように記憶していますが、座喜味グスクにも見られないようですから、山田グスクにもなかったのでしょうね。

 これは、軍事施設としてはほとんど意味がないように思えますから、なんか信仰上のトンガリでしょうか?
 例えば、水平思想のニライカナイから垂直思想のオボツカグラへの転換とか、熊野権現の信仰とか。。。あるいは「龍」とか「シャチホコ」とか?
 しかし、たんに石工達の思いつきデザインだとすれば、罪な話ですね(笑)。

投稿: 琉球松 | 2013年8月31日 (土) 16:47

>琉球松さん

城郭研究者に聞いたのですが、石垣のコーナー部分は水平にすると視覚的に下がって見えるので、若干上げると見栄えがするそうです。本文でも紹介しましたが、本土の城でもコーナーを気持ち尖らせることがあるとか。

グスクには「穴」などの信仰上あえて造ったものもありますから、隅頭石も可能性としてはあるかと思います。『おもろさうし』などに関連する歌などがあれば面白いですけど。

いずれにせよ、真相は造った本人に聞くしかないかもですね(笑)

投稿: とらひこ | 2013年8月31日 (土) 17:05

上里さんへ

 首里王府の行政機構は、船の組織のようなものだとすると、この「隅頭石」は船の先端部分を表現してはいないでしょうか?
 まあ、陸の船とでも言いますか。。。そこに鳥がとまっている光景を時々見るんですけど、琉球古典音楽『♪ 白鳥節」や奄美大島の『♪ よいすら節』では、船の先端にとまる鳥は船員の誰かのオナリ神であり、その霊力で航海安全は約束されたようなものだと歌われています。
 女性の霊力を尊重する琉球文化圏の信仰が、この形に表れていると考えることもできるかもしれません。

投稿: 琉球松 | 2013年9月 1日 (日) 09:56

訂正

 琉球古典音楽『♪ 白鳥節』や奄美大島の『♪ よいすら節』の歌詞では "船の先端" ではなく「高艢」でした。
 そこに鳥がとまるのは縁起のいい事なのでしょう。

投稿: 琉球松 | 2013年9月 2日 (月) 10:26

>琉球松さん

なるほど。船の先端とは、意外とありえる話かもですね。探求してみる価値はありそうです。

投稿: とらひこ | 2013年9月19日 (木) 18:17

 はじめまして、クワガタと申します。

 最近、グスクに興味をもち、グスクの一般書を読み始めました。
 「石積みの控え」とは、何なのか教えて頂けないでしょうか。

投稿: クワガタ | 2013年11月16日 (土) 10:14

>クワガタさん

はじめまして。控えとは奥行の厚さを表す土木用語のようですよ。以下を参照してください。

http://doboku.ezwords.net/yougo/%e6%8e%a7%e3%81%88.html

投稿: とらひこ | 2013年11月16日 (土) 10:55

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