巨大カタツムリ飼育ブーム(1)
アフリカマイマイは沖縄でおなじみの生物です。その特徴は巨大であること。外来生物で現在、沖縄で繁殖し農作物を荒らすことから害虫となっています。このアフリカマイマイ、戦前に移入されたことは知られていますが、より具体的な当時の状況を知ることのできる戦前の新聞記事がありましたので、それをご紹介します。なお旧字体や読みを現代の文章に改めてあります。
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◆食用蝸牛受難記(上)崎浜門川 (「琉球新報」1939年〔昭和14〕6月17日)
食用かたつむりが本県に流行り出したのは昭和9年(1934)ころだったと思う。当時、県の某技手が台湾から持って来たとかでその繁殖力の旺盛さと飼育法の軽便さを宣伝し、商売気の早いある農園主は早速孵化したばかりのものを、1匹50銭宛にて売ると大げさに宣伝し始めた。その宣伝は覿面(てきめん)に利き、あたかも低金利時代の勧業債券のごとく、買い手は門前市をなす盛観だった。
どの家に行っても軒下には素麺箱かビール箱の片方の面に金網張りの飼育箱があり、雨天には昼間でも砂からのこのこ這(は)いて網目に横ばいになって触覚を外につき出して、狭い箱の生活苦を訴えているのが見受けられた。永年離島苦をかこつ我々に、なにか生活の足しになればと言う気を手伝ってか脚光をあびて登場した時代の寵児は、子供にまでもてはやされ、私も子供にせがまれて知人から2匹もらい受けて飼っておいた。
飼育法は至って簡単で西瓜の皮、菜葉等が好物らしく、台所の不要物で充分だから子供に持ち切らすことによって悪い道遊びもなくなり、他聞動物愛護の気も養うことになると考え子供に一任した。時には隣の友達がやってきて箱の中に四方から頭をつっこんではしゃぐ。「うちんのはもっと太いよ」「ぼくんとこは昨日たくさんの卵を産んじゃった」とここでも宣伝戦が始まる。「うちんのも、やがて子供ができるよねー。お父さん」と助太刀を求めてくる。はたしてどちらのものが太いかは見た上でないと判断は出来まいが、話し模様から推すとお隣の方が成長しているらしい。
子供が言うた通り、私の方も2週間後に産卵した。狭い箱の中に真珠のような卵が砂丘のように重なり合っている。白髪三千丈式形容ではなくほんとに真珠の山である。この驚く程の繁殖ぶりは看板通り偽りなく現下日本の国策型であり、生産力拡充の叫ばるる今日、支那大陸はもちろん遠く欧州まで輸出してもなお余りあるほどである。
「かたつむり商」の看板でも掲げてみたいと思ったが、流行り出した時たんまりあてこんだ商人さえ黙っているのに、素人がうっかり手出ししてあべこべにこっちが甲を踏みつぶされてはと観念した。
私は田舎時代から釣りのほかに野菜作りに趣味を持ち、また相当自信もある。那覇に来てからも家庭内に空地のある所を借り、冬は葉野菜、夏は瓜類を作っている。ヘチマは棚にとどかない間がほんとの手入れ三昧期で、朝と晩との伸び具合を比較したり、蔓をしっかり巻き着かすため適当のところに導いてやってり、終日たのしまれる。
(つづく)
※ウィキペディアの記事には厳重に管理されていたアフリカマイマイが沖縄戦を機に野外に逃げ出し繁殖したとありますが、この記事を見ると戦前からすでに爆発的に広がっていたことがわかります。
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コメント
「カタツムリ」の沖縄口は「チンナン」ですから、この「マイマイ」は "ウフチンナン" と呼びそうなものですが、ここまで大きいと固有名詞のまんまで通用するとの好例ですかね。
しかし、このマイマイ。。。子供の頃に食べたことあるんですけど、けっこう旨いですよ。高級食材として使うと何かと都合がイイんじゃないですかね?
投稿: 琉球松 | 2013年4月10日 (水) 23:16
札幌からです。
今日ありんくりん沖縄観ました。とても良かったです。
投稿: かず | 2013年4月20日 (土) 17:33
『ありんくりん沖縄』って、全国放送なんですね。
上里さん、イイ声してますね〜。無精髭がまたイイ(笑)。
投稿: 琉球松 | 2013年4月21日 (日) 11:06
>琉球松さん
アフリカマイマイ、食べたことがあるんですか!たしかに肉厚ですし、美味しそうな感じはします。あとは寄生虫の問題さえクリアできれば…(笑)
番組のご視聴もありがとうございます!全国放送なのですが、BSに入っていないので僕はまだ見ていません(笑)
>かずさん
札幌からありがとうございます!伝統お菓子&お茶とはいいますが、ただ漫然と伝えられてきたわけではなく、人々の大変な努力の結果、今の自分たちが楽しむことができてるんだなーと実感しました。
投稿: とらひこ | 2013年4月21日 (日) 11:31
保健所がどう扱うのかは知りませんが、寄生虫対策が完璧に行われれば、新琉球料理の具材として活用できるかもしれませんね?
ところで、『ありんくりん沖縄』での「ちんすこう」なんですけど、当たり前だと思っていたあの形は戦後以降で、本当の姿ではないというのはビックリでしたね。
この話をしたら、職場の同僚全員の目からウロコが大量に落下していきました。僕のウロコは昨晩のうちに枯渇しています(笑)。
投稿: 琉球松 | 2013年4月21日 (日) 13:07
>琉球松さん
無菌化できればたくさんいますから、あるいは活用できるかもですね(笑)
ちんすこうの昔のカタチが丸かったのは知っていましたが、現在の型がアメリカのお菓子に由来しているのは今回初めて知りました。なので僕も目からウロコが落ちましたよ(笑)
投稿: とらひこ | 2013年4月25日 (木) 08:24
二十数年前にテレビ朝日「愛川欽也の探検レストラン」という番組で、アフリカマイマイを小笠原の名物にしようという企画がありました。
小笠原の複数のホテル・レストランで様々な料理を提供し、ご当地グルメ(当時、こんな言葉はありませんでしたが)として順調なスタートをきったようです。
この番組が終了するとき、以前の企画がどうなったか再取材をしていましたが、小笠原では、結局、アフリカマイマイ料理は止めてしまったとのことでした。
その理由は、やはり寄生虫で、なにしろ粘液に含まれているため、調理器具に絶対に粘液が付着しないようにするとなると、大変な手間がかかるのでやっていられない、ということです。
もし、観光客に寄生虫患者が一人でも出れば、街おこしどころじゃないですからね。
その番組を見て思ったのは、個々のホテル・レストランで調理するのではなく、食品工場で万全な衛生管理のもと加熱下処理をすれば、上手くいくんじゃないかと……。
安い缶詰のエスカルゴは、アフリカマイマイのようですから。
小笠原には食品メーカーが無いですから無理でしょうが、沖縄ならいけるかも。
オキコあたりが、「ボイル・アフリカマイマイ」のレトルトパックや缶詰を売り出したら面白いですね。
投稿: RPM | 2013年5月29日 (水) 00:29
>RPMさん
アフリカマイマイを調理するという番組があるのは初耳でした。
確かに寄生虫の問題さえ解決できれば、食用として大いに活用できそうですよね。駆除も兼ねて一石二鳥ですし。沖縄で勇気ある食品メーカーが現れるといいですけど(笑)
投稿: とらひこ | 2013年6月 4日 (火) 17:45