久高島の「異種の民」
沖縄島南部の知念半島の先に浮かぶ久高島。近年では「神の島」として広く知られるようになりました。スピリチュアル・ブームに乗って、多数の観光客がこの島を訪れています。
この島には沖縄のほとんどで消えかけた古来の祭祀組織が温存されていて、島の女性は一定の年齢になると神女組織へと編入されます。12年に1度行われる就任式にあたるイザイホーの儀式は過疎化により現在途切れていますが、それでも1年のうち約30回もの祭祀があります。島には琉球の創世神話で神が降臨したという聖地のフボウ御嶽があり、沖縄のなかでも特別に格式の高い聖地です。
神秘的な雰囲気ただようこの島には、ある不可思議な事実が存在します。琉球王国の正史『球陽』には、次のように記されています(これは2010年に僕が監修したFEC文化事業部「首里城ミステリーツアー」で「炙りの煩い」とともに取り上げました。【こちら】に体験記)。
久高島、代々「異種」の人を生ず
太古より、知念間切の久高島には「異種の民」がいた。うまれつき性格は素直で、普通の人より賢く、よく仕事をした。暮らしむきはとても裕福で、現在、その種族は7、8名いる。彼らは皆、膝からくるぶしにかけてとても細く、かかとがない。足の甲は短くて足の指は長く、そのかたちは手のひらのようになって、地に立つ。
(『球陽』巻14、尚敬王31年)
驚くべき内容です。久高島に「異種の民」が存在したというのです。この「異種の民」は、目や肌の色が違うなど民族や人種が違うということではありません。身体的特徴そのものが、通常の人間ときわめて異なっているということです。膝より下は通常の人間よりも細く、かかとがなく、足はまるで手のひらのようで、指が異様に長かったといいます。彼らはいったい何者なのでしょうか。
考えられるのは、「異種の民」が突然変異で生まれた人々であった可能性です。しかし、個人個人でまったく同じ特徴を持つ突然変異が集団として維持され、何世代も変わらずに続いていくものなのでしょうか。また、実際に世界のなかでこうした突然変異の事例はあるのでしょうか。
注目すべきは、これが伝承や噂のレベルではなく、王国の正史に記載される「事実」であったことです。しかも見間違いの報告などの事実誤認や伝聞でもなく、王府は1743年の時点で「異種の民」を実際に確認しており、その数を7、8名と数えているのです。つまり、この事実は否定しようもない真実であったことになります。
彼らは他の島民とひとまず「異種」として区別されているものの、同じ島でともに暮らしています。とくに神聖視されてたり恐れられている様子もなく、むしろ働き者として肯定的に評価されているのが興味深い点です。
僕がもう一つ気になるのは、久高島が神聖な「神の島」とされていた事実です。創世神話によると、創世神アマミキヨが天上より降臨し、最初に沖縄に作った7つの御嶽のひとつが、この久高島にあるのです。さらに久高島は神女組織の頂点に立つ聞得大君や国王が定期的に久高島に訪れ、麦の初穂儀礼を行う特別な場所でした。
「神が降りた島」と「異種の民」との間にはどのような関連があったのか不明ですが、「なぜ久高島が神聖視されるのか」の一つの要因として、もしかしたら「異種の民」が存在したことがあったのかもしれません。
彼ら「異種の民」はその後どうなったのでしょうか。18世紀の時点で7、8名ときわめて少数だったので、おそらく途絶えてしまったことでしょう。『球陽』以外には彼らのことを記録した書物は一切ありません。現在残る久高島の祭祀や伝承のなかにおいて、彼らのことを記憶しているものはあるかどうか、僕の知るかぎりでは確認できていません。
つまり、信じるも信じないもあなた次第ということです…
参考文献:『球陽』