琉球ガセ情報に反論
ネットにより極度に発達した現代の情報化社会ですが、便利になったと同時に根拠のないデマやガセ情報もまた瞬時に伝わり、混乱に拍車をかけることが問題になっていますね(たとえばこちらとかビックリしました)。一方、前近代の時代は遠い外国の様子を知るのはきわめて困難で、いくつものガセ情報が出回り、それを確認する術がない時代でもありました。
1462年(第一尚氏の尚徳王の時代)、朝鮮へ向かった琉球使節の普須古(ふすこ。うふぐすくか)らは朝鮮側の役人・李継孫と会話しますが、李は琉球に関する書物をもとに、普須古らに中国語の通訳を介して質問を浴びせます(『朝鮮世祖実録』)。李の読んでいた書物は1317年に中国で編集された『文献通考』で、琉球に関する誤った情報だらけの内容でした(『隋書』の「流求国」の記述が元ネタ)。そのやりとりを紹介します。現代語訳にあたり、読みやすいように若干、意訳してあります。
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朝鮮・李継孫「男女の服やかぶりものはどうなっているの?」
琉球・普須古「男は色彩豊かできらびやかな服を着ているよ。私が連れているお供の服をみればわかるでしょ。冠は朝鮮のお坊さんのかぶる竹笠のような感じ。女は上下のパーツに分かれた服で、中国の女性服のようかな。ただ色とりどりの服にくわえて、(着物を?)頭にかぶって垂らし、かぶりものは男のする笠のようでやや大きいかな」
李「(『文献通考』で)昔の人が言ってるけど、琉球の男は鳥の羽を冠にして、タカラ貝をアクセサリーにして、赤毛で飾ってるんだって?女は薄絹の綾模様の白い布を帽子にして、いろんな鳥の羽で服をつくってるってあるけど。どうしてあなたの言うこととちがうの?」
普須古「昔の人のことは知らないよ。今はちがうんだよ」
李「武器とか武具はどうなってるの?」
普須古「かたちは日本のものと同じだよ」
李「(『文献通考』で)昔の人が言ってるけど、琉球は鉄が少なくて刀は動物の骨とか角で作ってて、麻布を編んで鎧(よろい)を作って、熊や豹の皮を使うってあるけど」
普須古「わが国に鉄は多いし、熊や豹もいないよ。それガセだから」
李「戦いとかどうなってるの」
普須古「わが国は死を軽んじることを尊いものとしているよ(それぐらい勇猛)。進むを知って退くことを知らない。戦って負けることはないよ」
李「(『文献通考』で)昔の人が言ってるけど、人々がお互いに戦って、もし勝つことができなければ人を派遣して謝罪と和解をして、戦死した者を回収して、みんなで集まって死者を食べるってあるけど」
普須古「ちがうって!昔も今もこの世の中で、人が共食いすることがあるわけないでしょ!それにどうして負けて謝罪することがあるの(さっき戦って負けることはないって言ったのに)」
李「刑罰とかどうなってるの」
普須古「法律は中国の法律を参考にしてるよ。ただ泥棒は即刻死刑で許さない。だから道にモノが落ちていても誰も拾わない」
李「(『文献通考』で)昔の人が言ってるけど、監獄では手錠や枷(かせ)はなくて、(死刑は)鉄のキリでうなじから首を突き刺して殺すってあるけど」
普須古「なんでそんな残酷な処刑をするわけ?それガセだから」
・・・こんな感じでやりとりは延々と続きます。この続きはまた別の機会に。
参考文献:池谷望子・内田晶子・高瀬恭子編『朝鮮王朝実録 琉球史料集成』
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コメント
2ちゃんねるとか見てると、沖縄の人の悪口良く書き込まれてますが、全くウチナーンチュの事判ってなくて笑えます(笑)
どんなに技術が進んでも、結局その方々の洞察力が物を言うんですね。
投稿: まりきん | 2011年7月 2日 (土) 12:38
>まりきんさん
一頃はIT革命だということで、非常にいい面がクローズアップされていましたが、ツイッターという最新ツールによって100年前のハレー彗星のデマが拡散したことに愕然としました。これでは100年前と変わっていないではないかと。
ネットが発達したからといって、分析能力まで高くなるとは限らないことを実感します。
投稿: とらひこ | 2011年7月 6日 (水) 18:31