【ネタバレ】テンペスト解説(4)
ドラマ第3回「神の追放」が終わりましたが、早くも高岡早紀演じる聞得大君が失脚!早々に表舞台から退場するというジェットコースターな展開ですね(笑)まあ聞得大君改め真牛の本領はここから発揮されるわけですが…
さて第3回で登場した各シーンのマニアックな歴史解説です。
ポイント1:琉球ではキリスト教は禁止だったのか
ドラマでは聞得大君がキリシタンの嫌疑をかけられ、その地位を剥奪されてしまいます。孫寧温の陰謀に見事かかってしまったわけですが(笑)、そもそも琉球ではキリスト教についてどのような扱いだったのでしょうか。琉球は1609年、薩摩島津軍によって征服され、以降、徳川の幕藩制国家のもとに組み込まれます。江戸時代当時、日本ではキリスト教は厳禁で、信者は死罪にもなる大きな罪となっていました。薩摩藩はこの江戸時代の国策であるキリスト教禁止を琉球にも適用したのです。
当初琉球ではキリスト教に対して特に禁止もしていませんでした。1624年、フィリピンから来た宣教師ルエダ神父が八重山に潜入して捕らえられますが、神父と接触した石垣永将は信者の嫌疑をかけられ、薩摩藩の指令で火あぶりの刑に処せられました(八重山キリシタン事件)。琉球は海外から日本へ潜入する宣教師たちの中継地となるとして、厳格な禁令が実施されたのです。さらに1633年には薩摩藩の指示により琉球全土で宗門改めも行われました。そうした事情が「テンペスト」の中でも反映されているというわけです。
ポイント2:聞得大君に金を貸した海運業者とは
聞得大君は民間の海運業者から資金調達を行ってしましたが、そんな裕福な人たちが当時の琉球の民間人にいたのでしょうか。
実はいたんです。この海運業者もちゃんと実際の時代状況を反映しています(これは原作がそうなんですが)。18世紀頃になると琉球国内の各離島間で海上交通が活発になっていきます。その担い手だったのが民間の海運業者です。彼らはマーラン(馬艦)船という中国式のジャンク船を使って、王府の年貢運送の請負いを行っていきます。離島に年貢を取りに行く際に、船を空にして行く理由はありません。海運業者は行きは沖縄本島の物品(泡盛や生活雑貨など)を満載して離島で売りさばき、船が空になると今度は離島の年貢を船に積み込み、本島へ運んで運送代をもらうという二重においしい商売をしたのです。
海運業のオーナーは港町だった那覇の民間人や士族層が主でしたが、実際に船を操っていたのは久高島や浜比嘉島などの離島出身者でした。この海運業は莫大な利益を生み、財政難となった琉球王府にしばしば献金を行っています。王府はその見返りとして献金者を新参の士族として取立てました。彼らは「コーイザムレー(買い侍)」とも呼ばれましたが、士族になるための金額は現在の価値で1億円以上。それだけのお金を払えるぐらい、彼らはボロ儲けをしていたわけです。
ポイント3:海運業者はなぜ聞得大君に祈ってもらったのか
また海運業者が聞得大君に自分たちの弁財天を祈ってもらっているシーンがありましたが、これも理由があります。海運業は常に海上での遭難と隣り合わせでした。当時の船は木造帆船。風向きや天候次第であらぬ方向に行ってしまいます。海運業は成功すれば大きな利益を得られますが、天気予報もない時代には非常に危険なリスクをともなっていたのです。
そこで海運業者たちは航海の安全を神々に祈っていました。有名なのは天妃。中国の女神で航海安全にご利益があるとされ、琉球の貿易船には必ずその像が載せられました。そのほかには菩薩なども信仰の対象となりましたが、実は聞得大君をはじめとした神女たちも航海安全を祈願していて、とくに聞得大君は航海の神そのものとも考えられていたのです。なので聞得大君に祈ってもらえるということは、海運業者にとってはとてもありがたいことであったわけです。
ポイント4:「銭蔵」とはどんなとこ?
多嘉良のおじさん(藤木勇人)がスイカに阿片が仕込まれているのを見つけた場所が銭蔵(銭御蔵)。ここは王府の管理する泡盛が貯蔵されていた施設でした。泡盛のほかに官銭の収納も行っていたといいます。王府の泡盛は古酒(クース)もあり、数百年も熟成されたものもあったようですが、現在では失われてしまいました。
ところで儀間親雲上が書き物をしているシーンで、背景の壁に大福帳のようなものがたくさん掛けられているのは気づかれましたか?あれは創作なのですが、泡盛を管理する帳簿として登場させました。残念ながら銭蔵でどのような文書があったのはかは具体的にはわかっていませんが、シーンで登場した架空の文書の表紙は「琉球王国評定所文書」を参考に作成しました。
本来は「泡盛代付帳」という名称で登場させる予定でしたが、演出のほうで「泡盛」としたほうがわかりやすいから、ということで変更になったのでしょう。当時の琉球では泡盛のことを単に「サキ(酒)」と呼んでいて、「泡盛」は本土で出回っているものが呼ばれた、いわば対外的な名称でした。ただ今回では視聴者にわかりやすいように、ということであえて「泡盛」という名称を採用しています。