シャコ貝の癒しの力
シャコ貝といえば沖縄近海でよく採れる貝で、シャコ貝の刺身は居酒屋などで人気のメニューです。サンゴ礁とともに暮らしてきた沖縄の人々とこの貝とはとても深い関わりがあります。
今から約2300年前の遺跡である木綿原遺跡(読谷村)からは何体かの人骨が見つかっていますが、そのひとつ、壮年男性の頭蓋骨のひたい当たりには陥没した傷が確認されています。これは生前に受けた傷で、鈍器のようなもので殴られてできたものだと考えられています。骨には治癒した跡が見られないことから、この傷を受けてまもなく亡くなったようです。
興味深いのは、副葬品としてシャコ貝やクモガイが供えられていたのですが、シャコ貝はこの頭部の傷をおおうように密着して置かれていた点です。どうやらシャコ貝に傷を癒す何らかの特殊な力があると考え、置かれたようなのです。ただし傷を負った男性は結局亡くなってますから、効果のほどはあまりなかったようですが・・・死後、その再生を願って置かれたものなのでしょうか。
貝塚時代には副葬品として人骨の周りにシャコ貝などが置かれている例があります。こうした貝には「死霊の捕獲・封印の道具」としての呪術的役割もあったようです。貝を副葬品として墓に入れるのは16世紀前半の士族の墓でもみられます。シャコ貝を埋葬の道具として使う風習は、身分の上下にかかわらず広く行われていたようです。
現在の沖縄でもシャコ貝やスイジ貝などは魔よけの力があると考え、家の周りに置かれたりしています。つまり、貝は太古より続く沖縄伝統の魔よけであったというわけですね。
参考文献:松下孝幸「シャコガイよ、傷を癒せ」(『南島考古』22号)、『沖縄県史 各論編2考古』
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