伝説の王は実在したのか
琉球で最初の王といえば、おそらく舜天王をあげる方が多いと思います。ところが、琉球王国時代の歴史書『中山世鑑』(1650年編集)には、この舜天王以前に琉球を治めていた王統があったと記しています。
その名は・・・天孫氏!
琉球世界をつくった神、天帝の子孫であるといいます。天帝はアマミキヨ(阿摩美久)に命じて天から降りて島や人を造り、その子孫が天孫氏の王となったというのです。この天孫氏王統、何と25代で1万7802年にわたって続いたとのこと。各王の寿命を平均すると712歳の超長生き!さすが長寿の国沖縄!
では、マジメにこの天孫氏について考えてみましょう。現在の研究でわかっている1万7000年前の状況といえば・・・そうです。ちょうどあの有名な港川人の時代です。つまり・・・港川人は天孫氏だった!?(ナナンダッテー)・・・わけはなく、当然ですが旧石器時代に天孫氏の王が琉球を統治していたわけはないので、伝説にすぎないことは明らかです。
じつはこの天孫氏、王国時代にもその真偽をめぐって問題になっています。1731年、歴代王の位牌をまつる崇元寺で天孫氏に対する祭祀が行われていないことを問題になります(もともと実在していないので行われていないのは当たり前ですが)。諮問を受けた久米村の程順則(名護親方)らは、以下のように回答します。
天孫氏の時代には文字がなかったはずなのに、なぜ今に伝えられているのか?中国の王朝でさえ長くて800年ほどの治世なのに、天孫氏王朝が1万年も続いたとは信じがたい。
元ネタになっている『中山世鑑』の序文にも「前代には記録らしいものがない」と書いてあり、同時代の中国の状況と比べても荒唐無稽な話だ。
舜天王については時代も近く信じられるが、実在したと思えない天孫氏の位牌を安置するのは無用である。
「名護聖人」と呼ばれた程順則はクールに天孫氏実在説を一蹴し、舜天を琉球開基の王とすることを主張したのです。この意見をうけ、王府は天孫氏の位牌を浦添の龍福寺に安置することを決定しました。
天孫氏は王朝時代、すでに実在を否定されていたということなんですね。
参考文献:高良倉吉『琉球王国史の課題』
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コメント
初めまして!いつも楽しく拝見してます!
英祖王は浦添城趾周辺の調査から1270年代頃に実在したと言われてますが舜天王統も居城等何か確認できるものがあるのでしょうか!?古琉球時代の各地の城主の話しが歴史書などにありますがほとんどは口伝によるものなのでしょうか?教えて頂ければ嬉しいです!
投稿: GNH | 2010年7月17日 (土) 17:14
天孫氏は程順則に否定されていたのですネ。けれど県内各門中では門中始祖の繋がり示すところが多いんのも興味深いです。
投稿: ハウ真ちゃん | 2010年7月18日 (日) 11:33
>GNHさん
いつもありがとうございます。
舜天については同時代史料はまったくないようです。ただし1522年の尚真王時代の碑文には「舜天・英祖・察度」とあり、この時代に舜天の存在は認知されていたみたいです。
古琉球の各按司については伝承によるものが多いです。王国時代にそうした伝承を記したものはいくつかあります。
>ハウ真ちゃんさん
正式な系図家譜は王府の編集で作成されるので、王国時代には天尊氏を始祖とする記述は不可能だったと思います。天尊氏自体が公式に存在を否定されているわけですし。おそらく明治以降の動きなのかなと思います。
投稿: とらひこ | 2010年7月24日 (土) 07:45
我が家にゎ天孫氏の祖先である家系図があります。
最近、私もはじめて拝見したので、
それを見ても、なにがなんだかわかりません。
家系図的にゎ、天孫氏から始まり~私のおじいちゃんまでが書かれていました。
私も、拝見して以来学校とかで琉球王国について調べてみてはいますがこの方がどういう人なのか今だ理解できません。
投稿: med | 2012年1月13日 (金) 00:38
>medさん
天孫氏は実在の人物たちではないので、具体的なキャラクターは伝わっていません。
琉球王国時代には、士族の家系図に天孫氏と書くことはできないので、おそらく沖縄県になってから作られたものだと思います。
投稿: とらひこ | 2012年1月15日 (日) 09:28
おじいちゃんからの話によると
沖縄が復帰する前からあるものだと言ってました。
戦後、ふるくなった為書き直した物の複製が
我が家にはあります。
唯一この情報源を知っているおじいちゃんは
亡くなったためそれ以上のことは
私たちもわかりません。
ただ言えるのは、この家系図を親族の中で持っているのは
少人数でもっている方が珍しいくらいです。
投稿: med | 2012年1月17日 (火) 01:01
>medさん
実際のものを確認しないとどのようなものかわかりませんが、もし気になるようでしたら、那覇市の歴史博物館に見てもらうといいと思います。あそこには琉球王国時代の家系記録が集められています。
投稿: とらひこ | 2012年1月20日 (金) 21:21