« 『琉日戦争』インタビュー記事! | トップページ | 戦国インテリジェンス―海域アジアをめぐる諜報戦―(6) »

2010年1月23日 (土)

南の島に雪が降る

Photo

亜熱帯の沖縄では冬でも零下を下回ることはなく、雪が降ることはありません。しかし1999年12月、那覇市のパレット久茂地前で雪が降る様子がビデオ撮影され、ニュースになったことがあります。気象台は「当時の気温は13度で、そんなことはありえない」と反論しましたが、ビデオを見るとたしかに雪のようでもあり、真相は不明です(こちら参照)。

沖縄で気象観測がはじまって「雪」と観測されたのはただ1例、1977年久米島においてのみです。しかしこれは完全な雪ではなく正確には「みぞれ」でした。やはり沖縄に雪が降ることはないのでしょうか。ちなみに2005年には国頭村の奥で過去最低の5.2度を観測、同じころ奄美では山頂に雪も確認されたとのこと。

実は王国時代の記録(『球陽』)をみてみると、「ひょう」や雪が降ったことが確認できます。たとえば1774年、久米島では雪まじりの雨が降り、草木の葉に雪が積もったそうです。1845年には北谷に雪が降り、恩納から今帰仁にかけてはピーナッツほどの「ひょう」や降ったとあります。そして1816年には、久米島で降雪がありましたが、何と2.5センチの積雪だったといいます。この時、島の作物は枯れてしまったそうです。明らかに雪です。そして同年、伊平屋島では6センチの積雪(!)が確認されています。

こうした雪の記録は、にわかには信じがたいかもしれませんが、僕はかなりの信ぴょう性があると考えています。実は雪が観測された18、9世紀、地球の気候は小氷期に入っていて、世界全体が寒冷だったことがわかっています。現在の温暖化の逆パターンですね。さらに1707年には日本で富士山が噴火、1783年には浅間山(群馬・長野県)が噴火し、上空を火山灰におおわれた列島では寒冷化がいっそう進み、凶作・ききんも広まりました。この時期の江戸(東京)ではなんと2メートルの積雪(!)もあったほどです。こうした影響が南の琉球にも波及した可能性があります。

この時期の沖縄は今よりも平均気温が低く一段と寒い気候で、「あられ」や「ひょう」はもちろん、雪が降ることも充分にありえることだったわけですね。つまり世界的な気候変動が沖縄に雪を降らせたというのが真相です(それでも非常にまれなケースなので、歴史書に記録されるわけですが)。

 ちなみに王国時代の琉球人はちゃんと雪を知っており、琉歌などでも雪を題材にしたものもあります。これは当時、中国の北京や日本の江戸などに行く機会があったので、海外で降雪を体験する人が結構いたというわけです。

参考文献:『球陽』、北村伸治「沖縄の雪の古記録、沖縄近海の異獣古記録」(『沖縄技術ノート』4号)

【画像】鹿児島の琉球館跡。ヤマトに行った琉球使節は雪を見る機会があった。

人気ブログランキングに投票
応援クリックよろしくお願いします

|

« 『琉日戦争』インタビュー記事! | トップページ | 戦国インテリジェンス―海域アジアをめぐる諜報戦―(6) »

コメント

はじめまして!

沖縄に雪が降った記録があるとは、驚きました!

100年に1度あるかないかでしょうから、当時の人の混乱は極限状態でしょうね・・。

私は雪国に暮らしておりますので、なんとなく親しみを覚える記事でした。

また伺います☆応援ぽち

投稿: hirots | 2010年1月24日 (日) 09:40

>hirotsさん
訪問どうもありがとうございます。

沖縄のエメラルドグリーンの海に舞う粉雪なんて風景は想像もできませんよね。

クリックも感謝です!まだのぞきに来てください。

投稿: とらひこ | 2010年1月26日 (火) 17:04

小氷期だった時代を除くと「沖縄気象歳時記」(伊志嶺 安進著 ひるぎ社)には

1963年2月1日 石垣島平喜名で、最低気温5.9度。田圃の水が結氷し、窪地に霜が降りたとの報告。
1963年2月2日 宮古島測候所で、最低気温7.5度。職員の計測でビーカーの水が凍る。
1963年2月6日 那覇で最低気温8.0度、霰(あられ)
1977年2月17日 那覇で最低気温7.1度、霰(あられ)
久米島で最低気温6.7度。この時に午前0時35分から40分までの5分間、霙(みぞれ)が降ったようですね。
1978年1月23日には名護で最低気温3.8度、霜が降りました。同年2月1日には沖縄本島及び久米島各地で霰(あられ)が降ったとあります。
この本にも「絶対に沖縄諸島に雪が降らないとは言い切れないものがある」とありますので1999年の件も…

実は1999年「沖縄降雪の謎」のあった日、たまたま昼間ですが飛行機の乗り継ぎ時間を利用して那覇の久茂地あたりを歩いており、「やけに寒かった」事を記憶しております。
その後、石垣便に乗りついで石垣島にて、このニュースを見ましたが、「降ったかも知れないなぁ」と思いました。

投稿: 雨男 | 2010年2月 3日 (水) 19:24

>雨男さん
詳細な情報、どうもありがとうございます。
比較的最近の事例を見て、沖縄は思ったより寒い気候になる場合があると感じました。

1999年のときにも現場にいたとは!大変貴重な情報です。勉強になりました。

いっぺん「南国沖縄」イメージの再検証をする必要があるのかもしれませんね。

投稿: とらひこ | 2010年2月10日 (水) 00:04

中1の子供の宿題を手伝っていてここに着きました。
沖縄で明治か大正に雪が降ったことを調べよとの宿題でしたが、そのころの記事はネット上では出てきませんでした。
江戸時代のことで勘弁してもらいます。
助かりました。

投稿: さららのひめみこ | 2011年6月 9日 (木) 20:41

>さららのひめみこさん
最近の中学校ではそんな宿題が出るんですね・・・(笑)

戦前に雪が降ったという記録は僕は確認していませんが、観測が始まってからは本文にもありますように、1977年の例が唯一だと思います。

お役に立てたようで何よりです。

投稿: とらひこ | 2011年6月 9日 (木) 20:53

久米島は寒い事で有名です、潮の流れから本島とは気候が少し違います、

77年の降雪は2月に2回あったと記憶しています(地元なので)、姉の誕生日が16日で母との会話の記憶からその前後だったと思います。

当時は空港近くに住んでいて最初は霰が降っていて庭が白くなっていました
しばらくして霙が降って(雨のように)いて雪に変わりました時間にして10分位だと思います。

あられはよく降っていました昔は・・・

40代以上の久米島の方は知っていますよ普通に。

投稿: 大城  | 2013年11月20日 (水) 22:25

>大城さん

これは大変貴重な情報、ありがとうございます。

当時の詳細な状況がわかり、よりイメージすることができました!

投稿: とらひこ | 2013年11月30日 (土) 11:02

http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/daily_s1.php?prec_no=91&block_no=47929&year=1977&month=2&day=&view=p1
気象庁のやつです
本当なんですね1977年の雪
2月16日と17日に2回も降っています(霙)気温6.7℃なので

投稿: 気象好き | 2013年12月11日 (水) 19:10

>気象好きさん

このような記録が公開されるんですね。初めて知りました。貴重な情報ありがとうございます。

それにしても、6.7度とは恐ろしく寒いですね(笑)

投稿: とらひこ | 2013年12月14日 (土) 19:17

私がまだ19歳の頃那覇の久茂地交差点で雪を見ました。
その日はとても寒くて私は那覇市の某有名なクラブでバイトをしていました。仕事の準備中に6階から外を見ると、フワフワしたボタン雪のようなものが降っていました。夜の9~10時頃だと思います。
バイトメンバーはみんな目撃しています。
途中で忙しくなったのでどれぐらいの時間降ったかわかりませんが5分位は見ていました。
1999年か2000年の12月クリスマス直前だっとはあくしております。
NHKのニュースでも取り上げられたようです。

投稿: 雪見た人です。 | 2018年12月23日 (日) 22:53

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 『琉日戦争』インタビュー記事! | トップページ | 戦国インテリジェンス―海域アジアをめぐる諜報戦―(6) »