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2009年9月 3日 (木)

島津侵攻秘話(1)

今年は薩摩島津軍が琉球へ侵攻してからちょうど400周年です。この歴史的事件は比較的有名なのですが、詳細を知る人はあまり多くないと思います。そこで今回から数回に分けて、琉球侵攻事件にまつわるお話を紹介していきたいと思います。

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薩摩の尚寧、東に祈る
1609年、島津軍3000が琉球を襲い、占領しました。尚寧王は降伏し、4月5日に首里城を明け渡すことになりました。やがて島津軍の大将・樺山久高は尚寧王に、「薩摩へ渡って(島津家久に)御礼をしなければならない」と日本へ渡航するよう強制します。琉球の王が他国へ渡るなど前代未聞です。しかし敗れた王にこれを拒否する権利はありませんでした。

5月15日、島津軍とともに尚寧王と供の者100人あまりが鹿児島へ向けて那覇港を発ちました。やがて一行は薩摩の山川港を経て、島津家久のいる鹿児島へ到着しました。鹿児島では新造の屋敷が用意されていて、尚寧王はしばらくそこに滞在していました。

そして年明けて1610年。新年を異国で迎えた尚寧王は、元旦にある祈りを行います。その様子を伝えた『喜安日記』にはこう書かれています。

正月三が日は尚寧王のもとに誰も訪れてこなかったが、朝の御拝を東方に向いて祈られた

この行為は今まで注目されてきませんでしたが、非常に興味深いものです。尚寧王はただ気まぐれに祈っていたのではありません。

古琉球では、元旦に首里城正殿前の御庭で「朝拝御規式(ちょうはいおきしき)」と呼ばれる、王国の年中儀礼のなかで最大のイベントが行われていました。これは御庭に諸官一同・諸山の長老(和尚)が整列し、その年の吉方(恵方)に向かって祈る儀式です(近世には北方に固定)。中国系の音楽が流れ鮮やかな旗・儀仗で飾られた荘厳なものでした。

しかしこの年、王は鹿児島へ連行されていたので儀式が行えません。そこで囚われの王は臨時的にたった一人で祈りを行っていたのです。東方に祈ったというのは、あるいは東方海上に存在すると考えられた別世界「ニライ・カナイ」の方角に向けてのものだったかもしれません。

王は太陽(てだ)の化身とされ、その力は琉球世界を豊穣にすると考えられていました。正月の儀礼は、その年の安泰を祈願する役割もありました。もしかしたら二度と戻ることはできない状況で、尚寧王は遠く離れた異国の地から琉球の幸せを祈っていたのです。

参考文献:『喜安日記』

※【画像】は近世期の朝拝御規式における国王(再現)

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コメント

とらひこさんこんにちは。初めての書き込みですがよろしくお願いします。

とらひこさんのコラムは王様のシャンプー的話から「政治の技術」や「琉球非武装の幻想」的話までよりどりみどりでいつも楽しく読ませていただいてます。

私は沖縄出身なのですが、琉球の歴史らしきものを学んだのははっきり言って小学校くらいで、恥ずかしながら琉球・沖縄の歴史について無知だったので、とらひこさんの2つの著書を読んだ時は文字通り目からうろこが落ちる思いをいたしました。
特に羽地朝秀と蔡温による、斜陽の琉球の構造改革コラムは今まで知らなかった先人の苦労を垣間見た気がして感動的でした。

私は現在大学生で、社会人になってから琉球史を一から学びたいと考えているのですが(もちろん趣味という形にはなりますが)初心者に近いものが独学というのはどうなのでしょうか?
もちろん論文を書いたりというレベルまではいかなくてもいいのですが、城址の発掘を手伝ったり、最新の琉球史研究についていける(論文が理解できる)くらいにはなりたいのです。

良書があれば良いのですが古文書の解読や解釈の方法など独学では難しいですよね。
やはり琉球大学に入学して史学科で基礎を学んで・・・という形が理想ですか?

コラムの書き込みのほうに長々と私事ですいません。本当はメールを送るつもりだったのですが・・。不適切でしたら削除よろしくお願いします。

投稿: やっしゃ | 2009年9月10日 (木) 00:59

>やっしゃさん
返事遅れてすみません。沖縄の歴史を学ぶことについてですが、もちろん社会人になってからでも大丈夫だと思います。

歴史学は基本的に自学自習の世界なので(自己流ではなくある程度の学問の方向性を知ったうえで)、必ずしも琉球大学に入学する必要はないと思います。もちろん入学すれば勉強できますが、古文書を練習するのでしたら、図書館や大学が解説している一般講座や勉強会でも学ぶことができますよ。図書館や大学の告知などをチェックされてみてはいかがでしょうか。

現在大学生ということなので、まずは沖縄の歴史の基本的な入門書を読んで歴史の流れを把握し、そして古文書解読のほうに移ってもいいと思います。入門書を読むのでしたらご自身で可能ですし。

古文書の基本的な読み方は、沖縄の歴史に関してですと、高良倉吉『御教条の世界』(ひるぎ社)なんかがオススメです。当時の読み方と現代語訳が対照できます。古文書で使用される候文の読み方をマスターし、講座などで実際の墨で書かれた古文書を解読するという手順で学習されるといいでしょう。


投稿: とらひこ | 2009年9月15日 (火) 20:45

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