みなさんはエスカルゴをご存じでしょうか。カタツムリの入った殻にガーリックバターを練りこみ、オーブンで焼いたもの。エスカルゴはフランス料理の高級食材として知られ、ワインの産地でもあるブルゴーニュ地方の代表的な料理です。食感は肉質のやわらかい貝類といったところでしょうか。
カタツムリを食べるなんて気持ちが悪いと考える人もいるかもしれませんが、実はこのカタツムリ、かつての沖縄では一般的な食材で、実に1950年代まで食べられていました。食料難だった時代には貴重なたんぱく源だったのです。
〔追記〕1970年代まで食べられていたとのコメントをいただきました。
石垣久雄「カタツムリの食べ方」(『南島考古』22号)で、聞き取りをもとにカタツムリの調理方法が紹介されています。それによると、カタツムリは主に汁にして食べられていたとのこと。
(1)畑などにいるカタツムリを採取する。雨の日だとたくさんゲットしやすい。
(2)カタツムリをしばらく置いて、体内の内容物(要するに糞)を排出させる。
(3)カタツムリを入念に水洗いしてヌメリをとってからナベなどで煮る。鍋からカタツムリが逃げないよう、ナベの縁には塩をこすり付けるとよい。
(4)沸騰したら野草などを入れて出来上がり。さあ、めしあがれ!
※よいこのみなさんはマネしないでください。
八重山の近世(江戸時代)集落からは、廃棄された大量のカタツムリの殻が見つかるそうです。1479年の朝鮮漂着民の証言(『朝鮮王朝実録』)によると、琉球の各島では日常的にカタツムリを煮て食べていたといいます。
また約3400年前の熱田原貝塚(南城市)からも、陸上産のマイマイが海の貝とほぼ同じ量で出土しています。カタツムリは沖縄古来の「伝統」食材だったわけです。カタツムリ食は、豊かさを獲得した現代においてその歴史的役割を終えましたが、もしかしたら洗練されて琉球版エスカルゴとして発展していた可能性もあったかもしれません。
ところで、朝鮮漂着民の証言で気になる部分がありました。
「沖縄島ではイナゴ・キリギリスのような虫がいて、大型である。人は好んでこれを食し、市場で売られている」
イナゴを食べる習慣は本土に残されていて、たとえば長野では今でもスーパーにイナゴの甘露煮が並びます。証言ではその大きさを特徴として挙げていることから、オキナワキリギリスの可能性があります。この虫は琉球列島の固有種で大型。現在、絶滅も懸念される希少昆虫です。
オキナワキリギリスの個体数が減少した理由として、沖縄で食用だったことの影響もあったかどうかは定かではありませんが、いずれにせよ古琉球の人々は昆虫が大好物だったことがわかります。
参考文献:石垣久雄「カタツムリの食べ方」(『南島考古』22号)、高宮廣衞『沖縄の先史遺跡と文化』
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