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2009年5月27日 (水)

本当だった?泉の伝説

生活になくてはならないのが水。今でこそ県内にはいくつもダムが作られ、水道の蛇口をひねればいつでも水が出てきます。では水道が整備される以前はどうしていたのでしょうか。人々の暮らしを支えていたのは、各地にあった「カー(川)」や「ヒージャー(樋川)」と呼ばれる天然の湧き水でした。

南西諸島で多く見られる琉球石灰岩は太古のサンゴが堆積してできた岩です。石灰岩は細かい穴が無数にあいているため、雨が降ると地下にしみ込んでしまいます。地下水はさらに水を通さない泥の層で止まり、やがて石灰岩と泥の層のすき間から地上に湧き出てくるのです。

こうした環境を活かし、沖縄の人々は湧き水を中心に生活を営んできました。村々には共同水場であるムラ(村)ガー、産湯で使うウブ(産)ガーなどがあり、泉は信仰の対象にもなっていました。

王国時代の那覇は「浮島」と呼ばれた島でしたが、ここでは井戸を掘っても塩分をふくんだ水しか出ず、対岸の落平(ウティンダ)という場所から湧き出る水を飲料水にしていました。くんだ水は船で那覇の浮島まで運ばれていました。那覇港に海賊などの敵が侵入した際、王府は落平に兵士を派遣して防御することを定めていましたが、水源が那覇の生命線だったことを示すエピソードです。

また首里城・瑞泉門の横にある龍樋(りゅうひ)は国王だけではなく、中国から来た冊封使の飲み水としても利用されていました。龍樋の水は毎日、那覇の冊封使のもとまで届けられたといいます。

ところで沖縄各地の湧き水には動物にまつわる伝承があります。例えば糸満市の嘉手志川(カデシガー)。昔、ひでりが続き村人が苦しんでいた時、ずぶぬれになった一匹の犬が山から現われたので、この犬を追ったところコンコンと湧き出る泉を見つけた、という伝承です。動物が泉を発見したという説話は沖縄各地に見られますが(牛や馬など)、犬が発見したという話がもっとも多いそうです。

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【嘉手志川】

この話は伝承にすぎないのでしょうか。実は、天女伝説で有名な森の川(宜野湾市)付近の遺跡(真志喜富盛原第二遺跡)から、グスク時代のものと考えられる7匹以上の犬の遺体が発見されました。犬は水路の近くに葬られていて、琉球犬とみられます。湧き水に対して、犬が何らかの特別な宗教的意味を持っていたことがうかがえます。

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【森の川】

この泉が犬の発見したものだったかどうかは定かではありませんが、現代に伝わる泉と犬の伝説がグスク時代にまでさかのぼる可能性がある、ということだけは言えそうですね。

参考文献:東恩納寛惇『南島風土記』、宜野湾市教育委員会文化課『宜野湾市文化財調査報告書第27集:真志喜富盛原第二遺跡・真志喜蔵当原遺跡』

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