渡嘉敷に恐竜!?
史料をめくっていると、たまに不可解な出来事を記述した箇所に出くわすことがあります。琉球王国の正史『球陽』には、なんと1698年に渡嘉敷島の海で「異獣」が目撃された怪事件が記されています。
それによると、渡嘉敷島の海浜を巡視していた役人たちが、付近の黒島の海中から突如出現しサンゴ礁のフチにうずくまる異様な動物を発見したとあります。その動物の体は黒いウシに似ていて、顔と耳・目はブタのようであったとのこと。4本の脚には水かきが付いており、まつ毛とヒゲは白色、尾はまっすぐで約30センチ、太さ約10センチ。鳴き声はウシのようで、うずくまる姿は犬のようであったといいます。驚いた役人たちは村へ知らせに行き、翌日、大勢の村人たちと現場へ向かいましたが、すでに怪生物の姿はありませんでした。
慶良間諸島の近海にはクジラが出現することが知られていますが、身体的特徴からみると、どうもちがいます。ジュゴンとも一致しません。我々が見たことのない新種の生物なのでしょうか。まさか絶滅せずに生き残った恐竜の一種?ネッシーやイエティ(雪男)のようなUMA(未確認生物)なのでは!?(ナ、ナンダッテー)
・・・と一瞬思ったのですが、いろいろ考えたところ、可能性として高いのはアシカやアザラシのたぐいではないかと思いつきました。2002年に東京の多摩川に現れ、日本中で話題になったアゴヒゲアザラシのタマちゃんをご記憶でしょうか。渡嘉敷島の「異獣」はいわばタマちゃんの琉球バージョンであり、今なら「トカちゃん」とでも命名され、見物客が殺到するかもしれないシロモノなのではないでしょうか。
当時の気候寒冷化と関連させ、この「異獣」をオットセイと推測する説もありますが、アシカの可能性も考えられます。かつて日本沿岸にはニホンアシカが1年を通じ生息していました(こちら参照)。この種は1975年を最後に目撃されなくなり、絶滅したと考えられています。300年前には相当数いたはずのニホンアシカが、まれに沖縄に回遊してきても不思議ではありません。
1581年にも名護の久志付近でアザラシらしき目撃例がありますが、沖縄周辺海域はアシカやアザラシの主要な生息地ではなく、沖縄で確認された事例があるのか、さらに調査する必要があるでしょう。みなさんも沖縄の海で泳ぐだけでなく、海面をながめてみては。もしかしたら変な生物が見つかるかもしれませんよ。
参考文献:『球陽』、北村伸治「沖縄の雪の古記録、沖縄近海の異獣古記録」(『沖縄技術ノート』4号)