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2008年11月 6日 (木)

5円の使い道(7)

5円の使い道(7) 弥次郎
▽俺は公明正大だ

氷屋を軒別に訪(と)いまわろうと思ったが、飲料水検査みたいでおもしろくないからそれはよして、ただ当てもなくトボトボとお歩行(ひろい)あそばした。お歩行のたんびにサラサラと袂(たもと)で鳴る物があるからハテナと思ってにぎってみると、さっきの球ころがしの戦利品だ。今まで忘れていたのが鳴り出したのだ。西行法師の銀猫ではないが、子供でもいたらくれたいと思ったが、あいにくそこいらにはいない。いるのは娼妓を連れた納涼客ばかりだ。

▲知る人に逢わじ逢わじ
(波の上)十八番のビーアホールは例によって青くなったり赤くなったり上等がっているが、こっちは少し閉口する。誰かに見つかる恐れがあるから入るまい。他人をスッパ抜こう(暴露する)とするやつが反対(あべこべ)にスッパ抜かれては物にならぬ。いわゆる「知る人に 逢わじ逢わじと 花見かな」という態度だ、とノソリ、ノソリ(ジャラリ、ジャラリ)とやってくると、右側の一番端の氷屋で「エー、オハイリヤス、オハイリヤス」「イミソーレー(お入りください)、イミソーレー」「アケサメヨー、上等ドウー」と内地語と沖縄語をチャンポンにしきりに客を招いている。こやつはおもしろい、気に入ったとオハイリヤスにした。

▲今晩は不景気
俺が入ってきたから「エー、いらっしゃい」に代わって「一番ッ」と合図をする。一番から通り抜けて二番に入ると「二番ッ」となった。「何をあげますか」「冷そうめんをッ」「ハイッ」と言ってオンチュー(おじさん)に酒があるかと問うと「酒はありませんが、お銭(あし)をください。取ってきますから」という。「酒はいいからそれには及ばない。ここの主人は何という人だ」と聞くと「内地人です。城崎というんで。昨年から氷屋をやっていますよ。今晩はめっきりダメです。今までに3円(*1万5000円)しか上がりませんからな。昨晩はよかったんです、11円(*5万5000円)ありました」「オイもう何時だい」

▲ここいらに時計
「ここいらに時計はありません。ベーラー所(ベーラーそば)まで行かねば時もわからないんです。おおかたもう12時頃にはなりましょう」、うんぬん。不景気の店の番頭はのんきだ。10銭(*500円)の冷そうめんをペロリとたいらげて「アキさミヨウ」。あんまり上等でもないのでここを出て大日亭に入りこんでみると、女学生か女教員らしい女が3名、手前に腰かけて静かに氷を呑んでいた。向こうの座敷にも2、3名の客が寝そべって酒を飲んでいた。ここはすぐ失敬して社(やしろ。波の上宮)の方へ足を運んだ。(つづく)

(「琉球新報」大正3年《1914年》7月25日)

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