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2008年10月 9日 (木)

5円の使い道(4)

5円の使い道(4) 弥次郎
▽俺は公明正大だ

3回までは5銭(*250円)ずつ出してやったが、後はドンドン気に任せて何回だか数もおぼえぬ。やり続けたが、成績がどうも思わしくない。敷島2個当たったきり、後は筆と鉛筆ばかり。それが14本つかまされた。あまり馬鹿らしくなったのでよそうとしたが、主婦(かみさん)と小僧はなかなか許さない。そんなら最後の1回と試みようとやったが、今度は5銭ぐらいの石鹸が1個当たった。主婦は俺を逃がすまいとタコの手落としをやって、「ご覧なさい、これは明日から初めますが、あなたには特別にさせてあげます」とゴムまりを持ち出したが、もう店舗は大供・子供が俺を中心にザッと20人ばかり集まっている。後ろをふり返ってみると、電気会社の大嶺君がつっ立っている。これで85銭(*4250円。17回遊んだ計算)使ったわけだから、化けの皮があらわれぬうちだと失敬して、次に足を向けたのは三角の

▲氷と支那ソバ
氷と支那ソバ(沖縄ソバのこと)をちゃんぽんに売る店である。こっちから入ると氷店、あっちから入ると支那ソバ店と中の仕切りで品物と客の種類を別にしているところだ。氷から蒸発する気体と支那ソバから蒸発する気体とがこんがらかって変な蒸せっぽい空気が屋内を満たしている。俺は食べもしないくせに支那ソバの入口から入りこんで席をとった。俺と同席したのは60ばかりの田舎爺が酔っ払って胸前をはだけて座っているのと、40ばかりの粟国女がいる。女は支那ソバ2杯半をたいらげたところである。半というのは1杯をたいらげ尽くして今度2杯目の半分というところで箸を休めたのである。

▲支那ソバは牛の腸
氷のうえに支那ソバを食ってはちょうどこの店のような体裁になるのはきまっているが、しかたがない。注文に及ぶとやがて粟国人のオンチュー(人を見ては粟国《アグナー》と思え、というコトワザもあるまいが)が運んできた。ソバはプンと売りからが野蛮なものだ。油が染み出して触るとヌメヌメする。椀を犬のするようにあごを突き出して据え食いにしたが、どうしてなかなか食えるもんじゃない。牛の腸(はらわた)か何かのように堅くって堅くって(牛の腸は実験したことはないが)、やっと汁だけ吸って箸を置くと、酔っ払いの爺が「あなた食べぬなら私にくれぬか」と言う。「少し堅いがおあがんなさい」と言って、5銭(*250円)投げ出してここを立ち出でた。

▲風船玉を飛ばす
郵便局前をトボトボとやってくると、「参りましょうか」と車力(くるまや。人力車)さんが梶棒をつきつける。渡りに舟、イヤ車と何の気なしに飛び乗ると、車力は「どこへ参りますか」と問う。「崇元寺からズッと波之上まで引きまわせ」・・・・・・にかしこまったの高飛び車は、勢いよく駆け出した。久茂地通りに差しかかるとフト見つけたのは風船玉。そうだこれを一番買ってやろうと子供らしい考えで、車力を店頭に引きとめ「風船玉を30個ばかり買ってくれ」、風船玉・・・・・・と車力は怪訝な顔をしたが「何でもよいから子供のおもちゃにする風船玉だ」。風船玉1個1銭(*50円)するのと5厘(*25円)するのとがあった。1銭のやつを30個仕入れて、サァこれからまた発展だ。(つづく)

(「琉球新報」大正3年《1914年》7月22日)

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