5円の使い道(3)
5円の使い道(3) 弥次郎
▽俺は公明正大だ
どこへこれから行こうとアチコチ見まわして立っていたが、フト見つけたのは球屋だ。いつかのスケッチ子(琉球新報3面にあるコーナー)に紹介された通りなら、これは面白いと店頭に立ったが、人(客)一人いない。主婦(かみさん)と小僧がちらちら人待ち顔に立っていたりするばかりである。俺は思いきってとうとう5銭(*250円)をつまみ出して台に置いた。
▲主婦ニコニコ
主婦(かみさん)ニコニコ者で出てきて「おやりになりますか、球ころがしなら5銭です。5銭出してすべて当たったら敷島(戦前のタバコ)5個です。50銭(*2500円)儲かります。なかなか上手の人がおりますよ。あなたもお上手でしょう。様子でわかりますわ・・・」などとやらぬ前からおだててくる。それから見ると俺もまったくのむく鳥(田舎者、おのぼりさんの意味)だなァと思ったが、よしよし、だまされたと思ってやってみよう。こうした機会でなければできぬと奮発して、サァやってみた。
▲球は7つ並べられた
1つ1つ台板をはじき出す心地はよい。コロコロ転がっていって穴の中へハマる時は勝ったような気分になるが、さてなかなか思う壷に投ずるということはむずかしいんだ。はじき返されて後に戻りハマるかと思うと、穴を飛びこして隣の球とカチ合い穴外に停止したり、前の球を押しころがして自分がその穴に入り先のやつを穴無しにしたり、ぶつかっては離れ、離れてはぶつかり始末におえぬ。7つの球をすっかり転がし終わって、「5つ入りましたからサァ10銭(*500円)の敷島をあげます・・・」
▲貴方はよほどお上手
「あなたはよほどお上手ですわね、サァ、もいっぺんおやりなさい・・・」よしよし、新馬鹿大将の俺はまた5銭、財布からつまみ出し、マッチをすって戦利品を吹かしながらやりだした。小僧のやつは球の転がるたびに「ヤッコラヤッコラ、あぶないあぶない・・・」とわめいて手をたたいたり足を踏みならしたり、台板のまわりを飛びはねる。「オウ、向こうの球屋にまた馬鹿者か、一人かかった」と近所の若い衆や子を抱いて涼みに出た職人などが寄ってきた。人一人もいなかった店頭は早や
▲群集が黒山
群集が黒山をなした。馬鹿らしくもなり、恥ずかしくもなり、我ながら気の毒にもなり、変な心持ちになったが、そこは方便なもの。さっきの氷ビールが手伝って俳優気分になって、俺の舞台を見よとばかり一寸の球にも五分の隙があろうと、その隙を狙っては転がし転がしすると、今度も敷島1個当たりました・・・ときた。よっぽど俺は上手だ。この勢いでは、店中の敷島は今に俺のものになる。もういっぺんやるぞ・・・・・・(つづく)
(「琉球新報」大正3年《1914年》7月20日)
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