5円の使い道(2)
5円の使い道(2) 弥次郎
▽俺は公明正大だ
ソソクサした気分でしばらく市場のまんなかにポカンとして立った。さてこれからどこへどう潜りこもうか、よしよし、まあ氷屋にでも入れと、イの一番「先客万来」の暖簾(のれん)をくぐった。五間に仕切った客席、まんなかに帳場を張って和装琉身のおかみさんがひかえている。「いらっしゃい。ご案内を」。俺は財布の入った重たい袂(たもと)を気にしながら入口に近い一間に腰をおろした。
▲金時100杯だ
「何にいたしますか」と短褐(たんかつ。丈の短い粗末な服)半裸体のオンチュー(おじさん)が注文を聞く。「金時を・・・エー金時1杯」 ―氷をけずる音を聞きながらキョロキョロと見まわすと、注文書きのビラの薄汚いこと。一面煤(すす)だらけで去年の名残りをとどめている。さえあるに、ところどころ油のしみが付いている。土間には天井からねずみが小便した跡さえありありダッ、ありありダッ。俺は馬鹿らしくなった。これからねずみの小便で金時100杯、イヤ95杯たいらげなければ4円83銭をなくすることはできないのだ。
▲洋服姿の3人男
と考えつつ、金時1杯進まぬながら舐めて、今度は何を食おうかと例の油の跡のにじんだビラをながめると、ビラ尻に氷ビールとある。金時95杯は思いとどまって氷ビールを注文して静かに待っていると、洋服姿の3人男が靴音高く入ってきた。すだれ越しに顔を見ると、真っ先の男は菅野南風原校長、次は平田東風平校長、今一人はどこかの校長。3校長はズッと奥の一間へ陣取った。
▲何を注文するか
何を注文するかと思ってみてみると、やっぱり島尻の3名士も俺と同感で金時を・・・であった。氷ビールというのは朝日(ビール)に氷をカチワリにしたのをコップに盛ったのであった。校長さんたちはおかわりを取って3人とも額をつき合わせて、やがて開かるる夏季講習会の話などしてたらしい。平田君の声が少し調子高い、ほかは教育家らしい態度を保って、いかにも物静かであった。
▲とうてい実行家にあらず
次に入ってきたのはどこかの小僧さんと近所の娘を連れてきたらしい主前(しゅめー。親父)さん。暖簾の風を平凡に吹いて先客万来もこれでは怪しいと思わせたが、ソレよりもこれからの俺がよほど怪しい。ときどきコップをおろしては窓から往来をながめたりして、落ち着きかねている。相棒の喜多八は今頃どうしてるのだろう?彼奴(きやつ)、奇抜なことをする男だからきっと
▲一筋縄では否
一筋縄ではいかぬ横着なことをやらかしてるのだろう。それにくらべると俺はとうてい実行家にあらずだ。俺の最初の計画は、俺ながら風流絶奇と思ってたのだが出遅れ、オジャンになったと考えながら、早く尽きよかしとヤケにうなった。ビールがなかなか減らない。とうてい2杯ぐらい、ソッと机の下にこぼして立ち出でたが、勘定35銭(*1750円)はべらぼうに安いなァ。3円ぐらい取ればよいのに・・・(つづく)
(「琉球新報」大正3年《1914年》7月19日)
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コメント
こんにちは、とらひこさん。
私も買っちゃいました
『誰も見たことのない琉球…』
最近、バタバタしてるので、
ヨンナー読みたいと思います
シンポジウムなども行けたらいいな
投稿: あまりりす | 2008年9月29日 (月) 13:44
>あまりりすさん
本のご購入、本当にありがとうございますヽ(´▽`)/
イラストが多いですから、ヨンナー読んでくださいね。
シンポジウムもぜひ来てくださいね。サインもしますよ(笑)
投稿: とらひこ | 2008年10月 4日 (土) 12:03