大正沖縄・紳士の宴(2)
●偕楽軒夜話(中)/ある紳士連の会合(琉球新報・大正5年3月2日)
A氏:(ナイフで器用に肉を切りて)「感応ってどんなことがあったんです?」
紋付の紳士:「さあ、どんなことって露骨には話されませんがね(笑う)どう言うものか、いつもとは大変違った何とも言えない感じがしましたね。一口に言ったら快感ですな、何とも言えない一種快味ですな(一同の笑い声)いや実際ですよ、ん、今度は出来たぞと直ぐ直覚しましたからな」
(笑い声たえず)
セルの袴の青年:「何かの本で月経前後が好いということを見たんですが、それは経験された事はありませんか?」
名物男:(肉を口に入れつつ)「そうそう、そんな説もあったようだね。しかし我輩の説は必ずしもそうじゃないね、いつだってうまく行った時は出来るさ」
(また肉を頬張る)
丸顔の青年:(微笑しつつ)「しかしこの説は学者でも理由はわからないと言ってるようですよ?」
名物男:「そうそう、わからんと言ってるようだ」
紋付の紳士:「あんまり繁昌し過ぎて少し料理が遅いですな。早く持って来ればいいのに・・・」
(呼鈴〈ベル〉を押す)
名物男:「芝居で言えば幕合が長すぎると同じ事で困るな」
(給仕4度目の皿を運ぶ。ナイフ・ホークの音)
背広の青年:「こちらの料理は非常に好いようですね。それに器物が綺麗で清潔ですね」
A氏:「食器が君、不潔だと料理はいくら上等でも手をつける気にならないからね」
紋付の紳士:「しかしここが出来て余程便利を感じますね」
外套の青年:「那覇としてもこのぐらいの家は是非無くてはなりませんからね」
セルの袴の青年:「自分の家にもちょっとした西洋間を持ちたいものだな」
A氏:「そうだね、ちょっと好いね。人に椅子・卓子(テーブル)だとゆっくり構えないからね。畳だと君、どうも用件以外の余計な話をされて僕らのような忙しいものには困るからね」
セルの袴の青年:「しかしどういうものか椅子だと打ち解けて話せない気がしますが」
丸顔の青年:「打ち解けたところか、今晩なんかそれ以上大変奇抜な話が出たじゃありませんか?」
(給仕6度目の皿と西洋菓子とを配る)
名物男:(ビールを飲みつつ)「ああ、もうこれで腹一杯だ、もう食べられない。何だ阿蘭陀雑炊(ウランダズーシ)か、これは好物だ」
(大サジで食べ始める)
A氏:(煙草に火をつけ)「一体昔から唐手名人(武士)と言われた人々はそろって皆、健啖家(※)だね君」
名物男:「そうだそうだ、師範校の屋部中尉(※)もすこぶる健啖家だぜ。唐芋でも盆にいっぱい盛ったのを我々ならうまそうな奴から選んで3つ4つ食うが、あの人は1番手近なのから片っぱしから平らげてしまうそうだから驚くね(一同笑う)大食するだけ身体も強いからね。屋部さんなら我輩が力をこめてウンと突いたところで平気なものさ」
(おかしい手つきで鉄拳を前方に突き出してみせる。笑い声)
(つづく)
※健啖家 …食欲の旺盛な人。大食漢。
※屋部中尉 …屋部憲通(1866~1937)。沖縄県で最初の軍人、陸軍中尉。明治には「屋部軍曹」の名で広く知られる。日露戦争後、師範学校で空手の指導にあたっていた。
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