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2007年7月24日 (火)

大正沖縄・紳士の宴(3)

●偕楽軒夜話(下)/ある紳士連の会合(琉球新報・大正5年3月3日)

A氏:(西洋菓子をつまみながら)「君は見たところでは身体が馬鹿に大きくて強そうだから、知らない人ならちょっと脅かしがきくんだろうね?」

名物男:(得意顔)「辻などを夜中歩いても大抵の乱暴漢は僕を見ると身体が大きいものだから、ビクビクしてめったに手出しをしないようだよ。外見は強そうに見えても我輩、実は喧嘩ほど嫌いなものはないからね、こいつはちょっと事が面倒だと思ったら遠慮なく逃げることに決めてあるんだ(笑い声)

ところでたった一度だけひどい目に遭った事がある。冬の闇夜だったかね。染屋小小路から女を買ってた時分で、そこをぶらついてたら、いきなり後ろから鉄拳が飛んで来て我輩の横顔をパンとやられたんだな(手で真似をして目を光らせる)不意打ちだから我輩ヒョロヒョロと溝の中に片足を突っ込んで倒れてしまったね(笑い声)これは逃げないと大変だと思ったから、幸い2、3間先に人力車(くるま)があったから、それに飛び乗るや一生懸命走らせてやっと逃げのびたんだね。あの時ほどたまげた事はなかったぜ」

A氏:(笑いつつ)「意気地なしだな」

名物男:「いやいや、決して意気地なしじゃないなんだ。誰だって後方から突然やられちゃビックリするさ。こんな大切な立派な顔を傷でも付けられちゃ大変だからな(顔中を撫でまわす)」

外套の青年:「あまり立派でもなさそうですぜ」

名物男:「男の目と女の目とは違うもんだ。君らにはそう立派に見えんでも、これでも若い時にはいくらも女が惚れて来たからね。今でも遊びにかけちゃ君らには負けんさ(一同の笑い声)ところで今晩の二次会はどうするんだい?」

紋付の紳士:「二次会なんてまだまだ早いですよ」

(呼鈴〈ベル〉を押す)

外套の青年:(大きな金時計を出す)「まだ10時30分だ」

(給仕、扉を排して入り来たる)

紋付の紳士:「オイ、もっと料理を持って来い。それにビールも・・・」

A氏:「あ、もう沢山沢山。これ以上食べられやしないよ、珈琲(コーヒー)でも貰いましょうか」

紋付の紳士:「それじゃ珈琲を早くね・・・」

(給仕去る。暫時沈黙)

A氏:「近頃は芝居はどうだい。面白いかね?」

セルの袴の青年:「一向面白くありませんね。相変らず野卑なものです」

A氏:「今の役者に顔の好いのは無いね君。以前はいくらも役者らしい好い顔のものがあったのにどうも今のは感じが悪いね」

名物男:(ビールを飲んで)「そうそう昔は揃っていたな、女形でも好い奴があったからな」

丸顔の青年:「今の芝居は実際閉口しますね。どうかして一歩一歩改良出来ないものかしら」

セルの袴の青年:「難しいよ、当分現状維持でもっともっと下劣になって行くだろう」

丸顔の青年:「下劣の絶頂に達したらそろそろ改良の方法もあるでしょう・・・」

(給仕珈琲を配る。皆それをすする)

名物男:「甘い珈琲だ、さあもう帰ろう。二次会だ二次会だ・・・(笑い声)」

(おわり)

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コメント

 沖縄近代史にお詳しいようなので、1つ教えてください。
 沖縄の歴史というと、琉球王国時代か、先の大戦、そして戦後、といった時代については語られることも多くありますし本も多くあるようです。
 しかし私は最近、「琉球処分後から戦前まで、劇的な政治的・社会的変化の中で沖縄がどう歩み、沖縄人がどのようにそれに適応してor反発して生きていったのか」ということを知りたいと思うようになりました。
 つまり、琉球王国滅亡後、かの悲惨な沖縄戦に至るまでの数十年間の歴史や社会について知りたいのです。それによって、沖縄戦の背景も、当時の沖縄人の心情も、より深く理解することができるだろうと思うのです。
 こういうことについて、何か分かりやすい良い本はないでしょうか? もしご存じでしたらご紹介いただけるとありがたいです。

投稿: アキゾー | 2007年10月 4日 (木) 21:42

>アキゾーさん
僕の専門は古琉球史(中世)なので近現代史はあまり詳しくありません。最近勉強をはじめたばかりです。

戦前沖縄の歴史本についてですが、全体的な概要を簡単に知るには、新城俊昭『高等学校琉球・沖縄史』がいいでしょう。また少し突っ込んだ論文集だと琉球新報社編 『新琉球史 -近代・現代編』 、当時の生活や人々の様子を知るには琉球新報社会部編『昭和の沖縄』なんかが面白いかもしれません。
昭和の沖縄
http://8510.teacup.com/nirai/shop/01_01_03/BK030306/

『那覇市史 通史篇・第2巻』でも近代沖縄の歴史の全体像を知ることができると思います。

投稿: とらひこ | 2007年10月 5日 (金) 07:15

 ご専門ではないにもかかわらず、いくつもの本をご紹介いただき、ありがとうございました。さっそく、近くの図書館で手に入るものから読み始めたいと思います。

 最近の一連の沖縄問題騒動と、それに対する反応を見る限り、どうやら右の人も左の人も、本土の人も沖縄の人も、沖縄の近代史や当時の人々の心情を十分に理解せず、曲解・思い込み・誤解・感情だけで物を語っているのではないかと思われたのです。まずは、当時の社会の背景を正確に知ることが大切だと思います。

投稿: アキゾー | 2007年10月 5日 (金) 22:29

>アキゾーさん
もっといい本がありましたらまたお知らせしますね。それと本ではありませんが、戦前沖縄の人々の心情等をリアルに知ることができる新聞投書欄を僕のブログで紹介しています(大正沖縄の2ちゃんねる)。もうご覧になったかもしれませんが、そちらもあわせてご参照いただければ。

おっしゃる通り、今回の騒動については問題の本質とは別のところで事態が動いているように感じます。僕は熱狂の渦に入る気には到底なれません。アキゾーさんのような冷静に問題を把握しようとする方の存在は貴重だと思います。

投稿: とらひこ | 2007年10月 6日 (土) 08:01

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