王国の試験問題・解答
それでは前回の試験問題の解答です。解答例は実際の試験で合格した人たちの答案。若干、意訳してあります。
【問1・解答例】
私が思いますに、琉球が薩摩と通交していることが中国に知られては面倒なことになります。常日ごろでも薩摩と琉球の関係を中国人は疑っていろいろ尋ねてきており、何とか言い訳をして疑いを晴らしているような状態です。十文字マークが薩摩の紋であることを、長崎に来ている中国人でよく知っている者もいるのではないでしょうか。彼らに言い訳したとしても、それは通じないはずです。
それに我々が福州で何とか隠しとおして反物を注文しても、注文した品が絹織物の産地・蘇州で調達されればおのずとウワサは広まってしまい、もしも薩摩の紋のことが発覚して、琉球が日本に従属していることが清朝政府の耳に入れば、我が国は面目を失い、朝貢貿易が断絶する原因にもなるのではないかと、恐れながらこのようなご命令に驚いております。
とにかく十文字マーク入り反物の調達は可能なのですが、以上のようにいろいろ支障があって実際に調達するのは難しいので、どのよう対処すればいいのか、このことについてご指示をたまわりたく存じます。(合格者1位・佐久本筑登之親雲上の答案)
※コメント…行政で実際に起こりうることを想定した時事問題。受験者の実戦力が求められます。
【問2・解答例】
今回、講談師匠の交代(1名)につき私と父が採用試験に受験したところ、私が1番で父が2番となりました。恐れながら申し上げますが、父は長年、この試験にチャレンジしてきましたがいまだに合格することができません。私は近頃、父を気の毒に思っていましたところ、今回も私より劣っていたようです。
もし試験の結果で採用されるなら父より私が先に選ばれてしまい、思いもかけなく出世することは幸運だと思いますが、いま出世の階段を昇る役職を願い、父より早く出世してしまうのは私の本意ではありません。そのうえ本来の学力については、とりわけ父のほうが優れているのですが、試験というものはおおかたその時々のカン次第でありまして、たまたま子より順位が下だったことはかわいそうなので、何とぞ今回は父のほうを採用してくださいますようお願いします。
もちろんこれが赤の他人ならこのようなお願いはいたしませんが、これが親子の間であるため黙っていられず、恐れをかえりみずにお願いした次第です。どうかこの件について重ね重ねよろしくお命じくださいますよう、お頼みいたします。(合格者2位・比嘉筑登之の答案)
※コメント…儒教的道徳をみる問題。試験結果よりも親孝行が大事なようです。
【問3・解答例】
世間に対して酒を飲むことは以前より法令でほどほどにせよと通達してあったのだが、近頃これが守られず、みな酒を飲みすぎる傾向があるようだ。私欲にふけることは災いの本とは言うものの、その多くは自身の恥になるまでのことなのだが、飲みすぎは精神を乱すものだから自然と行いはムチャクチャになり、家庭の雰囲気だけでなく社会の風俗までも乱すものである。さらには酔った最中に不始末を働いて犯罪を犯し、家族までも迷惑をかけてしまうのはまことに馬鹿らしい。
身分を問わず酒の飲みすぎには特に心をいさめるべきである。もちろん人間、心の慎みは肝心であるが、酒を飲みすぎれば、どんなマジメな者でも正気を失ってしまう。「心を慎むのに酒をひかえることを第一とせよ」と先人の教えにもあるので、これらをよく理解し、みだりに酒を飲むことはかたくいましめよ。このことを皆に申し渡す。(合格者1位・喜納親雲上の答案)
※コメント…昔からウチナーンチュ(沖縄人)は酒飲みで、王府も頭を痛めていたようです。
参考文献:『那覇市史』資料篇1巻11・琉球資料
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コメント
初めまして。今更ながら質問してもいいでしょうか?
問1の解答者の佐久本筑登之親雲上は朝鮮語を伊志嶺仁屋に教えた方と同一人物でしょうか?
投稿: 野橋 | 2015年12月15日 (火) 21:14
>野橋さん
お返事遅れてすみません。
残念ながら佐久本は同一人物かは判別できません。人物特定をするには「氏」か名乗りを確認しなくてはいけないからです。
同一人物だったら面白いんですけどね(笑)
投稿: とらひこ | 2015年12月25日 (金) 09:31