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2006年2月25日 (土)

地上に浮かぶ海の船

琉球の行政組織や役職・位階名はあまりなじみのない名前ばかりです。沖縄の歴史に興味のある方なら三司官(さんしかん)や親雲上(ぺーちん)、筑登之(ちくどぅん)などの名前を聞いたことがあると思いますが、政治組織の内実はなかなか知られていないと思います。今回は古琉球の行政組織のおもしろい仕組みについて紹介したいと思います。

その特徴は、行政組織が船の組織をモデルにしていたことです。王府の役人は基本的に12のチームに編成されていました。このチームの名前は「ヒキ」と呼ばれています。「ヒキ」は、血縁・祭祀の集団、組織といった意味があります。このチームのリーダーは「船頭」といい、副リーダーを「筑殿(ちくどの)」といいます。12のチームはさらに3つにまとめられていて、各グループのボスが琉球の3人制の大臣である「三司官(世あすたべ)」でした。三司官はもともと3つのグループをまとめる長だったのです。

なぜ組織のリーダーが「船頭」と呼ばれているのでしょうか。それはこのチームが普段は首里城などで行政の業務をしながら、順番がまわってくるとチームごとに専用の貿易船に乗りこみ、そのまま船員となったからです。この船員のチームは戦争の時にはそのまま軍隊の一部隊にもなりました。よく琉球には日本の武士のような軍事組織がなかったとカン違いされていますが、カン違いの理由は「ヒキ」と呼ばれる組織が行政・貿易・軍事の業務をかわるがわる行っていて、その存在がわかりにくいからでしょう(それに琉球が武器廃止令を出したというのはあやまり)。

つまり古琉球の役人は、ある時は行政マン、ある時は船乗り、ある時は兵士と1人3役をこなしていたわけです。とくに琉球の政治組織が「船」をモデルにつくられていたことは、琉球という国が航海と密接に結びついていたことを表わしています。社会のあり方がそのまま政治組織のあり方につながる例は、たとえば中国・清(女真族)の八旗制度にもみられます。内陸アジアの遊牧国家を発祥とした清は、まき狩りの組織をモデルとした8つのグループに編成された組織(八旗)を持っていました。この組織は軍事組織であるとともに行政の組織で、女真族の基本的な社会組織でもありました。清は草原を駆ける狩りの組織が、琉球は海原を駆ける船の組織がそれぞれ国家の編成のモデルとなったわけですね。

参考文献:高良倉吉『琉球王国の構造』

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コメント

琉球の組織形態が船の組織をモデルにしていたとは面白いですね。
武官と文官の対立もなさそうですし。実にフレキシブルな感じがします。

投稿: たかし隊長 | 2006年3月 4日 (土) 05:57

>たかし隊長さん

琉球の政治組織は日本との比較だけではなく、世界の様々な国や地域と比較すると、その特徴がみえてくるように思います。

投稿: とらひこ | 2006年3月 5日 (日) 23:52

はじめましてー

ふらふらと遊びに来ましたよー!

そうですね~。武器禁止令は無かったように私も思いますよー。その理由としては、位階の中で古琉球の「比屋」(組踊に多数出てきますよね)は「火矢」「石火矢」のことで大砲をあらわす、いわば軍隊系の役職名に思えます。古琉球組織の中ではなかなか高い位に属していたようにも見えますし・・・。どうでしょうかねぇ

投稿: かなしー | 2006年6月16日 (金) 15:49

>かなしーさん

訪問ありがとうございます。

たしかに琉球には「火矢」と呼ばれる火器兵器があったようです。

しかし、「比屋」は直接「火矢」が語源ではないように思います。例えば「大親(うふや)」という称号は「大比屋」と表現されている場合を見たことがあります。確かなことはちょっとわかりませんが、そこらへんから来た当て字ではないかと思います。

投稿: とらひこ | 2006年6月16日 (金) 22:23

そうですかぁ。

「大比屋」ですか。私は未見でした!
教えていただいて有難うございます!

投稿: かなしー | 2006年6月18日 (日) 17:26

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