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2005年7月10日 (日)

小林よしのり『沖縄論』に思うこと

先日、小林よしのり氏の『新ゴーマニズム宣言SPECIAL・沖縄論』が発刊されました。本の多くが沖縄の歴史について書かれているとのことで、ざっと読んでみました。小林氏は基本的な入門書に目は通して、いちおうは勉強されているように感じましたが、現在の基地問題や戦後の部分はともかく、沖縄の歴史についての評価は納得できません(逆の見方をすれば、沖縄の歴史について全くの素人であった小林氏が沖縄の通史を論じられるまで勉強した、ということもできると思いますが…)。僕は小林氏の言うところのいわゆる「サヨク」ではありません。しかし小林氏の論は、沖縄の歴史を少しばかりかじっている者として承服しかねる部分がまま、あるのです。

今回はいちいちその部分を指摘はしませんが、一言でいうと、せっかく沖縄の歴史の本を読んで勉強しながら、自分の主張の合う部分を抜き出して都合よく自説の補強に使用しているという印象を持ちました。20~30年前に議論されてきたことの焼き直しにすぎない部分もあります。この数十年に蓄積されてきた研究を無視しているのです。そのくせ自説に都合のいい最新の研究成果はちゃっかり押さえてあります。

僕が言いたいのは小林氏の政治的主張の是非ではなく、沖縄の歴史についての理解・評価の問題です。これは今回の『沖縄論』だけにとどまらず、現在の琉球・沖縄史の一般的な共通認識の問題があると思います。沖縄の歴史研究書を読んでいて感じるのですが、現在、歴史学研究界と一般の人々の琉球史認識の間には大きなギャップが存在しているように思います。ネットの某掲示板などに流れる琉球・沖縄史の認識も『沖縄論』をさらに孫引きしたようなものが多々見られます。このギャップは歴史研究者の側にも責任の一端があるのではないでしょうか。

一般向けの本は、最近では『県史47沖縄県の歴史』(山川出版社、2004)や『街道の日本史50琉球・沖縄と海上の道』(吉川弘文館、2005)などが出されましたが、この内容が一般の共通認識にまでなっていないと思います。それに沖縄の歴史に興味を持つ人々の疑問にこれらの本が本当に答えているか、という点もあります。要するに、最新の琉球・沖縄史の研究成果を広める努力をする余地がまだあるのではないかということです。

このブログでは教科書的ではない琉球・沖縄史の話をコラム形式で書いてきたわけですが、沖縄の歴史全体を概観するには難しいでしょう。どこか別のところで全体を概観できる教科書的なブログをつくる必要性を感じます。僕は全体を論じることができるほどの専門家ではなく、素人に毛が生えたような力量しかありませんが、自分の勉強も兼ねて「目からウロコの琉球・沖縄史:通史編」を書こうと考えています。この試みが小林氏の『沖縄論』への批判にもなることでしょう。

※「続・小林よしのり『沖縄論』に思うこと(1) 」「続・小林よしのり『沖縄論』に思うこと(2)」もご参照ください。

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コメント

『沖縄論』、読んだまま放り出してあります。
正面から論じようと思うとやってくる独特の「イヤな気持ち」に抗いかねて・・・
そこには、このような「お手軽」でありながら「大局」を偽装したデモ本が、10万、20万という単位で浸透し、さらに縮小再生産されてゆくことへの、ある種の無力感も混じります。

しかし、自分のできる範囲で、たゆまずに「否」は「否」と申し立ててゆくしかないのでしょうね。
「通史編」、心から期待しています。

投稿: びん@沖縄・八重山探偵団 | 2005年7月13日 (水) 10:41

私も最近、伊波普猷の目を通してようやく琉球・沖縄通史を眺め始めたところなので、とらひこさんの通史を楽しみにしています。

投稿: あゆ | 2005年7月14日 (木) 02:59

びんさま あゆさま

ありがとうございます。通史編は今すぐに…というのは難しいです(^-^;少し準備をさせてください。

投稿: とらひこ | 2005年7月14日 (木) 21:57

はじめまして。
全部、過去ログよめていませんが、新城俊昭先生の『高等学校琉球・沖縄史』(地方・小出版流通センター ,http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4938984172/250-8056017-6541031)については、言及されているのでしょうか? 小生個人は、入門書として、「おすすめの本」にも、はいって当然かとおもったもので。
ちなみに、新城先生の本をつまみぐいして、小林氏のような強引な議論が可能でしょうか?

投稿: ハラナ・タカマサ | 2005年7月23日 (土) 11:45

ハラナ・タカマサさま

僕はこのブログで新城俊昭氏の『高等学校琉球・沖縄史』についてはコメントしていません。たしかに入門書として最適の書ですし、最初に読む沖縄の歴史の本としてオススメでもあるのですが、他のサイトなどでも紹介されることが多いことや、内容がやや古く最新ではないことなどの理由から、他の書籍をオススメにしました。

小林氏はいくつかの本を参考文献にしていますので、新城氏の本だけで自説を立てたかどうかはちょっとわかりません。記事でも少しふれましたが、小林氏があれだけの本を読みながら、なぜ沖縄を全て「日本」に回収するような結論になるのか不思議です。

投稿: とらひこ | 2005年7月23日 (土) 23:25

おへんじ、ありがとうございました。
 『高等学校 琉球・沖縄史』は、先端でないことは、しろうとでもわかりますが、あくまで高校の授業で教材にするものですし、そこに先進性をもとめるのは酷だとおもいます。
 むしろ、沖縄の高校生はもちろん、大学生あたりでも、この水準の知識をもたずに、オトナになってしまうことがおおいと推測されますし、東京などに進学・就職ででたあと、衝撃をうけて、このテキストにたどりつく層もいるみたいです。 
 「最先端の議論よりも、最低限の素養の共有」というのが、東アジア全域にとって急務だとおもいます。

投稿: ハラナ・タカマサ | 2005年7月24日 (日) 10:22

ハラナ・タカマサさま

僕は新城氏の本が沖縄の歴史を学ぶ上で有意義ではないと言っているのではありません。とてもいい本だとは思っています。ただ僕のブログは一番はじめの記事でも書きましたように、最新の琉球史研究を紹介するということを目的として開設したものです。

「最低限の共有」という面では前のコメントでも書きましたが、それこそ他のサイトで数多く紹介され、新城氏の本も定番になっているので、ここで敢えて強くプッシュする必要はないように思い、それよりも他のサイトがほとんど触れない「最先端の議論」をここの特色としようと考え、オススメを選んだ次第です。(それでも『沖縄県の歴史』や『街道の日本史』では沖縄の歴史の全体的な状況は知ることができますが)

また教科書のような体系的な知識を一から学ぶやり方もありますが、今まで聞いたこともない最先端の「目からウロコが落ちる」話を面白いと感じたことがきっかけで沖縄の歴史に興味がわき、そこから全体像を学んでいくというやり方もあるのではないかと思います。
ご理解のほどよろしくお願いします。

投稿: とらひこ | 2005年7月24日 (日) 12:08

私が感じたむかむかした気持ちをピタリとあたる言葉で表している文章で胸がどきどきしました。どうもありがとうございました。
私は彼が左とカテゴライズする枠に入るらしいので余計に敏感のなのでしょうが、本当に散々なまとめ方で読んでいて気分が悪くなりました。あれをもって沖縄を語るネット右翼の方々が増えるかと思うとうんざりします。

投稿: shinakosan | 2007年5月22日 (火) 01:50

>shinakosan さん
以前にも書きましたが、『沖縄論』についての問題の核心は「右か、左か」ではなくて、情報を客観的に分析して「論」として成り立っているのかどうかということだと思います。

その点から見て、小林氏の『沖縄論』は「論」たりえないと感じたわけです。

投稿: とらひこ | 2007年5月23日 (水) 00:55

以前トラバさせてもらった向日葵です。おこんばんわ

俺も最近「沖縄論」を読んで戦時・戦後・現在の沖縄の問題はナルホドと感じましたが、歴史認識部分は・・・・・どうもねぇ・・・小林的な「こうであったらいいなぁ♪」な印象を受けた一人です

遅くなりましたが増刷おめっとさんでし

投稿: 向日葵 | 2007年5月24日 (木) 21:10

>向日葵さん
おかげさまで増刷になりました。ありがとうございます。

『沖縄論』については、そうですね、僕のするべきは批判するだけでなく、もっと深い歴史像を提示することだと思っています。

投稿: とらひこ | 2007年5月24日 (木) 22:53

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