ジュゴンの肉を食べ、くじらのフンを嗅ぐ
「人魚」と言われた海洋哺乳類のジュゴンが、かつて沖縄で食べられていたことをご存知でしょうか。琉球王国時代にジュゴンは不老長寿の薬とされ、とくに国王が食べるために税として八重山の新城島に課されていました。
ジュゴンは顔立ちが馬に似ているため当時は「海馬」と呼ばれていました。新城島ではジュゴンの豊漁を祈るウタキ(聖なる場所)があり、捕獲したジュゴンの頭蓋骨が供えられていたそうです。漁は網を使い、捕獲量は少なかったようですが、獲れたジュゴンの肉は塩漬けか薫製など長期保存できるように加工され、首里の王様のもとへ運ばれました。でも、あんなにかわいいジュゴンを食べてしまうなんて、ちょっとかわいそうですよね。
海産物を納めたのはジュゴンだけではありませんでした。「くじらのフン」もそうです。フンといっても本当の「ウンチ」ではなく、正確にはマッコウクジラから放出される分泌物の一種で、灰白色のかたまりとなって海岸に打ち上げられるものだそうです。そのかたまりは良い香りをしているらしく、竜涎香(りゅうぜんこう)という香料として世界各地で珍重されていました。
琉球王国時代にはこれを「鯨糞(くじらのフン)」と呼んで、海岸に打ち上げられた「くじらのフン」を見つけた者は必ず各地の役所へ届けるように定めていました。役所では計量後、厳重に封印して都の首里へ送られました。良質の「くじらのフン」はだいたい500gで米750kgと交換されたそうですから、相当高価なものであったことがわかります。
「くじらのフン」の売却代金のうち、3分の2が薩摩藩、3分の1が琉球に分けられ、また日本本土の徳川将軍や大名たちに献上されたりもしました。たかが「くじらのフン」ですが、大きな利益を琉球王府と薩摩藩にもたらしたのです。しかし発見者にはわずかの褒美だけが与えられただけで、それほどフンの恩恵にあずかることはできませんでした。
ジュゴンは今でもたまに漁の網にかかってしまうものもいるそうです。現在では天然記念物に指定されているので、さすがに食べる人はいないでしょうが…。一体どんな味だったんでしょうね。「くじらのフン」は今でも海岸に打ち上げられるのかわかりませんが、皆さんも沖縄の海へ遊びに行った際には探してみてはいかがでしょうか。
参考文献:高良倉吉『おきなわ歴史物語』ひるぎ社、『新琉球史・古琉球編』琉球新報社
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